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実績・実例

公益法人から除名処分を受けた会員の仮の地位を定める仮処分申立てについて、被保全権利の疎明がないとして却下された事例

旭川地方裁判所平成11年1月26日民事部決定

本件は、顧問先の公益法人から受任した事件であるが、「類似先例のない珍しいケースについての判断事例であり、今後の同種事案の処理上参考」なるとして、判例雑誌「判例タイムズ」誌に紹介された(1037号248頁以下)。
団体の除名決定に関しては、労働組合や農業協同組合の事案は多いが、公益法人の事案は不思議なほど少ない(なお、最近では、東京地判平成5・6・24判タ838号234頁。古くは札幌地判昭和49・1・30判タ307号272頁)。

除名という処分は重大処分である。それだけに団体としてもやむにやまれぬ状況で初めて行えるものであることは言うまでもないが、もう一つ大事なことがある。それは、手続の履践である。

正当な理由があれば当然処分して当たり前と考えられがちであるが、あせって結論を急ぐと飛んでもないことになりかねない。
その最終的な処分に先立ちなすべき手続、例えば弁明の機会の付与がなされなければ、その手続不備だけで処分が無効となることがある。

手続をきちんと行うことによって除名の判断が誤りであることが判明する場合もあるし、たとえ除名に値する事情が明らかであっても、手続が不備であったというだけで除名処分そのものの効力が否定されかねないのである。つまり、法的には、手続を行うこと自体に価値が認められているのである(なお、例えば労働法の分野で、経営者が、手続の配慮を欠くと、解雇のような場合はもとより、団体交渉等の労働組合への対応においても、ほとんど致命的である。)。
そして、その後予想される紛争も考えると、必ずしも定款などの規定を形式的に遵守すればそれで十分とも限らない。
 
本件の依頼者も、もとよりやまれぬ状況において除名処分を行ったものであるが、それに先立ち、当事務所で、時間をかけあらゆる状況を想定して、最終的な処分に及ぶまでの間に行うのが適切と考えられる手続を検討したうえ、実際にもこれを徹底して行った。
本件でも、相手方は例に漏れず手続の問題を提示してきたが、このような綿密な事前準備をし、適正を期していたので、最終段階で手続の問題は争点からはずることとなったのである。

また、団体とその関係者(構成員、株主、役員・・・)に関する争いについては、もう一つ留意すべき点がある。それは、うっかりすると、裁判官に、紛争が単なる私情の主導権争いという先入観をもって事態を見られかねないということである。そこで、当事者としては、直接の争点ばかりに目を奪われることなく、攻撃防御のテーブルの設定にも十分に配慮しなければならない。

本件の、依頼者は、自動車教習所等を会員として組織された公益法人であり、業界団体としての性質も帯びている。相手方(債権者 なお、仮処分など保全手続では、申立てをした側が債権者、申立てを受けた側が債務者と呼ばれる。)は、主張の精緻さはともかく、業界団体の論理で攻撃を挑んできた。もとより当方は公益法人の論理で抗戦し、次の主張をベースとしたうえ、債権者のいう不利益は、存在しないか、いくばくか存在したとしても、反射的利益にすぎないものであることを主張した。

「債務者は、公益法人として公安委員会から指定試験車両管理機関としての指定を受け、届出自動車教習所全体の地位の向上を目指しているものであり、個々の自動車教習所の個別具体的な経済的利益の追求ないし確保を直接の目的とするものではない。債務者の業界団体としての役割は、指定試験車管理機関として公安委員会が保有していない試験車両を提供することにより、当該地域において、右試験車両の技能試験が実施できるようにし、右試験に関する教習を行っている届出自動車教習所全体がその業域を十分に確保するという点に尽きるものである。」

その結果、裁判所の決定中にも、「債務者は、会員相互の緊密な連絡強調において、交通安全に寄与することを目的とするとともに、届出自動車学校全体の地位の向上を目指し、北海統治時の認可を得て、昭和47年7月27日、民法34条に基づき設立された公益法人であり、・・・・・・。債務者の業界団体としての役割は、指定試験車管理機関として公安委員会が保有していない試験車両を提供することにより、当該地域において、右試験車両の技能試験を実施できるようにし、右試験に関する教習を行っている届出自動車教習所全体がその業域を十分に確保するという点にあるものと認められること、・・・・・・指定車両制度は個々の自動車教習所の個別具体的な経済的利益の追求ないし確保を直接の目的とするものではないものと解される。」と明記されている。

さて、本決定は、公益法人が行った除名処分について、元会員が、除名処分の無効を主張し、債務者の会員たる地位保全を求めた事案であり、裁判所は、除名決議の効力自体については判断しなかったものの、「地位保全の仮処分で保全しようとする権利ないし利益の具体的内容は、原則として、賃金請求権に限られるものというべく、本件のように営業上の損害賠償請求権を保全するために地位保全の仮処分がなされる場合には、被保全権利の疎明が必要であるほか、保全の必要として、地位を保全しておかなければ回復し難い著しい損害を生ずるか否かにより判断されるべき」としたうえ、債権者の主張する不利益は、認められないあるいは反射的利益に過ぎず、従って右不利益に起因するとされる営業損害との間に因果関係は認めることができず、被保全権利の疎明がない」として、債権者の申立てを却下した。

なお、前記判示事項に関連して、「・・・許可を受けた者が営業上の利益を受けることがあっても、それはいわゆる反射的利益に過ぎないのである。・・・・・・更に、債権者は不法行為に基づく損害賠償請求権を以て本件仮処分の被保全権利であると主張するが、かかる損害賠償請求権は仮差押の被保全権利とはなり得ても、営業妨害排除の仮処分の被保全権利とはなり得ない。」と判示するものがある(浦和地決昭和37・12・10下民13巻12号2463 頁)。

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