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コラム

●●の死「手術ミス」
●医師に、130万円賠償命令/東京地方裁判所!

北海道行政書士会発行『行政書士北海道』平成18年7月号

連 載
第1回 ライブドア事件、村上ファンド事件・・・・・・新聞に書かれていないこと!!(№278
第2回 “ステラ”の損害について判断。 被告に対し、「6,400万円を支払え」との賠償命令!!(№279
第3回 ●●の死「手術ミス」 ●医師に、130万円賠償命令/東京地方裁判所
第4回 なに、証拠がないって?! なければ、作ればいいじゃないか!!(№281
第5回 法律による有利な解決のためのプレゼンテーションをする!!(№282

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本稿の標題は、読売新聞平成16年9月9日朝刊に掲載された記事の見出しの一部を塗りつぶしたものだ。
前回は、

“ステラ”の損害について判断
被告に対し、「6400万円を支払え」との賠償命令!!

という標題で、アメリカの少し昔の裁判を紹介した。

今回は、世間で関心が深いと思われる、ごく最近の日本の裁判例を紹介する。
塗りつぶしを外して、記事の見出しをそのまま挙示すると、

愛犬の死「手術ミス」
獣医師に、130万円賠償命令/東京地方裁判所
だ。

同見出しの下、「飼い犬が清掃がんで死んだのは、獣医師が適切な手術を行わなかった」として、「動物病院を経営する獣医師に約560万円の損害賠償を求めた訴訟」で、東京地方裁判所は、平成18年9月8日、「精巣の摘出手術で一部を取り残す過失があった」として、獣医師に対して「慰謝料など計約130万円の支払を命じた」ことを報道している。



1 最近の日本では、“癒し”とか、“ロハス”とか、“スピリチュアル”とかいった言葉で象徴されるように、ライフスタイルを重視して物質文明を超えた価値を認めることが時代の潮流である。

そして、ペットとの関係も、より高い精神的なつながりとして理解されるようになっている。ある裁判例は、「現在の社会現象として少子化、核家族化、高齢化が進むとともに家庭で飼われている犬や猫などは、ペット(愛玩動物)からコンパニオン・アニマル(伴侶動物)へ変化したといわれている」と指摘している(春日井簡易裁判所平成11年12月27日判決)。

そのような時流の中、ペットが被害を負う場合だけではなく、ペットが加害する場合、そして、ペットビジネスとの関連など様々な場面でペットに関わるトラブルが発生している。
「動物の保護及び管理に関する法律」(略称「動物保護管理法」)が制定されたのは昭和48年のことであるが、平成11年にはじめて実質的な改正がされるとともに、法律名が、「動物の愛護及び管理に関する法律」(略称「動物愛護管理法」と改名された後、平成17年6月にも改正され、改正法は本年6月1日から施行されていることも、このような現象に沿うものといえる。


2 前記記事では、「原告代理人によると、ペットの医療過誤では前例のない高額な賠償額だという。」と報道されている。

それでは、従来の裁判例はどうだったのだろうか。時間が折り合わず出演には至らなかったが、東京の某テレビ局から取材依頼があった。これを機会に整理してみた。

獣医師の医療過誤の問題で、公刊物に掲載されたもっとも古い裁判例は、東京地方裁判所の昭和43年5月13日判決のようである。判例タイムズという判例雑誌に、「愛犬の死亡による慰謝料額」と題名で掲載されている。
3万円で購入した愛犬「ジュン」が医療過誤で死亡してしまったという事案であるが、裁判所は「原告には50才の坂をこえた今日まで実子がないところから、ジュンを狩猟用の愛犬として飼育していた」と認めたうえ、「ジュンの死亡によって原告の被った損害は、その財産的損害及び精神的苦痛に対する慰謝料として合計金5万円」とした。当時どのような時代かというと、3億円事件が起こり、川端康成がノーベル文学賞を受賞し、日本初の心臓移植がされた年である。

なお、医療過誤の事案ではないが、この判決より前に、ペットの死について飼い主から慰謝料請求が認められた裁判例としては、東京高等裁判所昭和36年9月11日判決がある。「時として単に財産的損害の賠償だけでは到底慰藉され得ない精神上の損害を生ずる特別の場合もあり得べく、他人が深い愛情を以て大切に育て上げてきた高価な畜犬の額を死に至らしめたようなときは正にこの例」としながらも、慰謝料額は3万円だった。

3 ペットの死亡や傷害については、いつもと言ってよいほど「慰謝料」が語られる。が、その説明をする前に、損害賠償について基礎的な理解を深めるために、人身事故による損害賠償の事案、例えば、交通事故を念頭に「損害」という概念を整理してみる。下表をご覧頂きたい。

┌──────────────────────────────────┐
│【表】損害の種類 │
│ │
│     財産的損害 │
│      人 損 │
│       積極損害 │
│       消極損害 │
│        休業損害 │
│        死亡・後遺症による逸失利益(得べかりし利益) │
│      物 損 │
│     精神的損害 │
└──────────────────────────────────┘

損害賠償の対象となる損害は、財産的損害と精神的損害に区分される。
そして、財産的損害は、人損と物損とに区別される。物損というのは、交通事故でいえば、車両の修理費であるとか、代車使用料とかだ。
そうすると、理屈しては、愛犬の死、怪我は、あくまで「物損」であり、「物」の滅失・毀損による損害なのである。冷徹に言えば、怪我をした愛犬の治療は、「修理」であり、愛犬の死亡は「全損」と
いうことになる。

積極損害とは、治療費や葬儀関係費用等の現実に支出することに関わる損害だ。
これに対し消極損害は得られたはずなのに得ることができなくなってしまった損害をいう。休業損害のほか、人が死亡した場合や後遺症を負った場合も、事故によって失ってしまった労働能力を想定し収入がどれだけ減ることになってしまったかという観点から算定される。

4 「慰謝料」は、精神的損害、つまり精神的苦痛に対する損害賠償金である。ペットの死傷の事案では、なぜ「慰謝料」ということに焦点があてられるかというと、ペットの財産的価値が把握しにくいからだ。
人の場合だって、本当は金銭評価は馴染まないのであるが、上記のようなフィクションを作り上げて損害を算定することになるが、ペットの場合は一般的に適用できるようなフイクションを作り上げること自体が難しい。
この点は、後で紹介する東京地方裁判所平成16年5月10日判決が、「原告らは本件患犬を子供のように思って育ててきたものであり、本件患犬を売却したり繁殖させたりする意思はなかったことは明らかであるから、本件患犬の交換価値を算定することは困難である(原告らは、本件患犬の取得価格等の主張はしておらず、交換価値を損害とすることは、原告の求めるところでもないと解される。)し、繁殖させることができなくなった逸失利益が発生したと認めることもできない。」と的確に説示している。
ペットの死亡や傷害について、ペットとの格別の関係から訴えを起こす飼い主としては、ペットショップで購入した価格を基に求めてもらったところで、納得が得られるものでないのが通例であろう。

そこで、損害賠償の内容としては、高度の愛情関係があった飼い主の精神的苦痛に対する損害賠償金である「慰謝料」を考えていくことも重大となる。

5 裁判所のHPでは、最高等裁判所判所の判例のだけではなく、下級裁判所の裁判例も公開しているが、冒頭で紹介した平成18年9月8日の東京地方裁判所判決は掲載されておらず、現時点で掲載した判例集や判例雑誌も見当たらず、具体的内容を解説することはできないので、それ以前に、ペット医療過誤訴訟では過去最高額を認めたとしてマスコミでも大きく取り上げられた裁判例を紹介しておこう(東京地方裁判所平成16年5月10日)。

犬の糖尿病治療について、獣医師がインスリンの投与を怠ったとして、飼い主夫婦が損害賠償を請求した事案だ。飼い主1人あたり40万3105円の損害を認めたが、そのうちの大半は慰謝料だ。前記4で述べたとおりの理由で、逸失利益は認めておらず、「慰謝料の算定において考慮することとする」として、慰謝料額を30万円と認定したのである。
同判決が認定した各損害額は次のとおりだ。
(1) 治療費 各4万8105円
(2) 葬儀費用     各5000円
(3) 慰謝料    各30万円
(4) 弁護士費用  各5万円

その他獣医師の医療過誤が問題となった事案としては、30万円で譲り受けた優秀な血統を持つショーキャットで、入賞した実績を有する猫に対する避妊手術について獣医師の過失が認められ、財産的価値が50万円、慰謝料は20万円と認定し、合計93万2500円の損害賠償額を認めた裁判例もある(宇都宮地方裁判所平成14年3月28日)。

この事件も、「原告の弁護士によると、ペット医療過誤訴訟では過去最高額という」と報道されている(毎日新聞平成16年5月11日)。

なお、ペットに対する獣医師の治療行為について過失を認めたものの、ペット死亡との因果関係の存在が認められず、飼い主の請求を棄却した裁判例もある(東京地方裁判所平成13年11月26日判決)、 医療過誤の場合、主張・立証については人間の場合並みに困難な場合も少なくないであろう。

6 16年の東京地方裁判所判決は「原告の弁護士によると、ペット医療過誤訴訟では過去最高額」であり、18年の東京地方裁判所判決は、「原告代理人によると、ペットの医療過誤では前例のない高額な賠償額」であり、新記録はどんどん更新している。一定の社会現象を背景とする価値観との関係で、裁判の持つ意味や役割そして実情を考える上で、良い素材となりそうである。

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