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コラム

名誉毀損訴訟の最近の動向
裁判所も制度“疲労”!?

初出:「名誉毀損訴訟の最近の動向」WEB専門ニュースサイト BNN
連載「弁護士Mの法律小咄」の記事(2001・10・25)

菅井盈元市議が平成13年9月20日亡くなられた。元市議とは、ある事件でお付き合いが始まった。それは、道新(北海道新聞)を相手とする名誉毀損事件であった。

元市議は、ある方の紹介で、私の事務所を訪れた。弁護士にも相談したが、訴訟提起はやめた方がよいと言われたとのことであった。疑惑の結果、選挙区の住民には、「道新が間違ったことを書くはずがない。疑惑が誤りであるなら、証明せよ。」と詰め寄られたとのことであった
憔悴しきっていた。そして、私が、事件として受任し、訴えを提起することになった。

平成11年3月1日、札幌地裁で判決が言い渡された。謝罪広告などは、それまでの裁判例の傾向が踏襲され認められなかったものの、賠償額として200万円の慰藉料が認められた。

慰藉料というのは、要するに、財産的損害ではなく、精神的損害に対する損害賠償金だ。精神的損害は、理屈上、心の中の損害と理解されているから、金銭評価が極めて難しい。そして、日本の裁判における慰藉料の認容額は、アメリカなどに比べると著しく安いと批判されていた。ある著明な元裁判官の当時の論文によれば、実務では、マスコミによる名誉毀損の場合の慰謝料として100万円が認められるのが相場であるといった感覚があることが指摘されていた(「名誉毀損における100万円の賠償ルール」)。

そのような中で、200万円の慰藉料額が認められたのは、当時としては、高額な慰藉料額が認容された事例の一つであると言ってよく、元市議にとっては全面勝訴であり、引退を控えていた元市議は、報道機関に対し、「勝訴できて思い残すことはない」などとコメントを残している。
なお、この事件の位置づけあるいは名誉毀損事件の考え方については、こちらを参照されたい。

高額な慰藉料が認められた象徴的な事件として、1100万円の賠償額が認められた横山ノック元大阪府知事の事件があったが、当時は、特殊な事件とみるのが一般であったように思われる。
しかし、アメリカほどではないが、最近、比較的高額な慰謝料を認容するような判決が出てきつつあったところ、東京地裁の裁判官らの研究グループが、今年9月に、「マスメディアによる名誉毀損訴訟の研究と提言」を公表したほか、側聞するところによれば、裁判所内部では、500万円を基準としポイントを加算・減算することにより慰藉料額を算出する資料が配布されたとのことである。

このような動きは、その到達点だけを見る限りは、正当なものであると考えられる。
が、躊躇せざるを得ない面もないではない。名誉毀損の慰藉料が低額に過ぎることは、もう何年も前から批判され続けていたことである。元裁判官でさえ“安い”と断言し、おそらく個々の裁判官の中には同様の考えを持つ者も多数いたであろうに、司法という組織の傾向は、批判を無視するものであった。

 それなのに、なぜ、今、にわかに、かかる批判に応えた対応がとられるようになったのかということである。

“世の中、結論が大事”、“結果良ければ、全て良し”というのも1つの考えであるし、一面の真理でもある。しかし、民主主義とか自由主義とか、そういった理念の下に、不断の議論を闘わした結果、勝ち取った結果と評するのは難しいように思う。このような突然の動きは、私には、最近の裁判官の不祥事にも象徴される司法自体の“制度疲労”による世間に対する無条件の迎合であるようにもみえるのである。

成果に至るプロセスを論ずることが、いかなる意味を持つかについて、私も断定した結論は提示できないけれど、ひ弱、崩れやすい、そんな感じが払拭できない。そんな印象のなかに、なにか、言いようのない不安を感じているのは、私だけであろうか。



■関連サイト
札幌市議がパチンコ店の出店工作をした旨の新聞記事について、名誉毀損による損害賠償として200万円を認容した事例(札幌地方裁判所平成11年3月1日判決:「判例タイムズ」1047号215頁)

・交通事故その他の損害賠償全般についてはこちらをどうぞ。

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