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ファーストフードで買った1杯のコーヒ。
それがアッという間に,64万ドル(当時で6400万円)の賠償金となったアメリカのステラ・リーベックさん(女性)のお話をひとつ。
ステラさんは,ファーストフードで買ったコーヒーでお尻に火傷(やけど)を負ったため,アメリカのニューメキシコ州で裁判を起こした。
裁判所は,1994年9月,ステラさん自身の過失2割としてその分を減額したうえで,何と64万ドル(当時で6400万円)の賠償額を認めたのだ。
でも,・・・・・・・・・
どうして,コーヒーを買ったステラさんは,・・・・・・
口とか喉(のど)にではなく,・・・・・・
お尻に火傷を負ったのだろうか?????????????????。
ステラさんは,自動車を運転してドライブスルーへ赴き,テイクアウトでコーヒーを買い,自動車の運転席に座ったまま,太股ふとももにコーヒー容器を挟んで蓋ふたを開けようとしたら,容器が倒れたからだそうだ。なお,ステラさんは79歳だ。
さて,日米比較のために,私が受任した日本での交通事故事件の例をあげてみよう。
ある会社グループ(総売上高約13億円)の現役ばりばりの創業者(61歳)が交通事故に遭遇し,不幸にも死亡してしまった。創業者には全く落ち度がなく,相手方に一方的な責任がある事案だ。裁判所の決めた賠償認容額は,8100万円強であった(遅延損害金を含めると,9200万円余り)。保険会社の訴訟前の提示額は6000万円強であったから,裁判を提起した結果,最終的には約3000万円増額されたことにはなった。もちろん,漫然と増額された訳ではなく,当方の法律的主張を認めてくれた事案でもあった。
しかし,それにしても,賠償認容額については,アメリカとの格差は著しい!!(最近の名誉毀損事件に裁判所の動きがあることについてはこちらをどうぞ)
なお,裁判前に治療代等相当額が支払われており,重度後遺症の障害を負った交通事故事件があった。保険会社の残額についての提示額はわずか54万円であったが,裁判を提起した結果,総額1900万円弱(遅延損害金を含めると,2300万円弱)の賠償が認められた事案もあった。我が国では損害保険の仕組みや運用にも問題がある。
日本とアメリカで,裁判所の人身事故の損害賠償認容額に大きな開きがあるのは何故か。
日本では被害者の失ったものを金銭評価するといくらになるかという面から賠償額を決めることになるが(「実質的賠償」),アメリカでは,実質的賠償の額それ自体高めであるばかりか,今後の事故防止のために加害者に社会的責任を金銭で償わせる制度があるためだ(「懲罰的賠償」)。
そして,このようなことが起こるのは,アメリカでは,弁護士の数が極めて多いこと(過当競争?)と陪審制度をとっていることが原因だといわれている。要するに,弁護士がとにかく訴訟を提起し,陪審員相手に言葉巧みに弁論し,ときにはその感情に訴え,賠償額をつり上げることが常識になっているのだ。
アメリカには,弁護士が80万人とか90万人とかいるといわれており,アメリカの弁護士は,分野が専門化しており,実に商売熱心である。
イエロー・ページ(職業別電話帳 例えば,フロリダ州内でもマイアミ・デイドカウンティのイエローページ)に顔写真入りの一面広告を出し,また,24時間,フリー・ダイヤルで受け付ける法律事務所もざらにある。事故は何時起きるか分からないから,マゴマゴしていると他の事務所に事件をとられてしまうからだ。
ロサンゼルスでテレビを見ていたら,突然自動車が衝突する場面が出たので,何かと思ったら,法律事務所のコマーシャルであった。そして最後に,「当事務所にお任せ下さい。泣き寝入りしてはいけません。貴方は莫大な賠償を受ける権利があります。**年の実績を誇る****法律事務所でした・・・。」とコメントあり。・・・・・・愕然(がくぜん)。
裁判の実況中継など専門のTV局もある(Court TV)。
日本語のホームページも開かれている。「当方は,経験豊かで行動派の弁護士です。飲酒運転で告訴された方の弁護に力を注いでいます。・・・・・・是非,“飲酒運転ケースの成功例”をご覧下さい。これまで手がけてきた飲酒運転ケースの殆どで成功を納めています。・・・日本語での問い合わせは,日本語アシスタント宮迫喜代子まで。」と。
http://www.topgundui.com/jp
ちなみに,日本の人口はアメリカの2分の1程度だが,弁護士数は約1万6000人に過ぎない。人口比率でいうと,アメリカは350人に1人の割合だが,日本は8500人に1人の割合だ(関連:日本の裁判はなぜ遅い??)。
アメリカの訴訟専門の弁護士(「トライアル・ロイヤー」)は,業務拡大のためどんどん訴訟を起こしてしまう(民事訴訟の年間数を見ると,日本では約250万件程度であるが,アメリカでは約1800万件に及ぶ。)。映画エリン・ブロコビッチ 、 シビル・アクション,レインメーカーでも見られたように,費用は全て弁護士が負担する代わりに,勝ち取った額の3割から5割を頂戴する(「完全成功報酬制」)。 なかには事故が起きると病院に駆けつけ,あるいはいつも病院に待機し,慌てふためく被害者や家族から委任状をとりつける弁護士もいる(「アンビュランス・チェイサー」 救急車の追跡者という意味)。
1984年インドのボパールで,ガス流出事故が発生し,付近の住民2000人以上が死亡し,2万人以上が負傷するという大惨事が起きた(“ボパール事件”)。そのとき,アメリカから弁護士が大多数でわざわざボパールまで乗り込み,被害者から委任状を取りまくったのだ。そして,損害賠償額の高いアメリカで裁判を起こした。
陪審制度は,アメリカ民主主義の理念に基づく仕組みであるといわれるが,反面,陪審員個人のパーソナリティや生活意識,ときには偏見に影響されるという側面がある(ちなみに,陪審は,場合によっては,裁判のために何日も拘束されるが,日当は50ドル程度とのことである。仕事どうするんだろう??)。
人種問題が影響したともいわれるシンプソンの刑事事件での無罪判決も,陪審員によるものであった。 民事事件では,これも陪審員によるものであったが,シンプソンの責任を認めて,850万ドルの損害賠償を命じた(なお http://www.courttv.com/casefiles/simpson/)。この差は一体どこから来るのだろうか。
アメリカは,訴訟さえもゲーム感覚だ。そして,法律事務所は,日本の法律事務所と大きく違っている。テレビゲームの攻略本を読むような対応をする。
そのお話は,次のページですることにしよう。
アメリカでは,企業の訴訟対策費は売上げの3%程度といわれる。これを超えると企業倒産に至るともいわれる。日本の前の消費税の税率と同じだ。
もっとも,訴訟対策費が消費税相当分にも及ぶのは,とんでもない賠償を請求されることがあるためだけではなく,アメリカの企業が,訴訟を経営的観点から戦略的に利用することは当然と考えていることも大きな原因と考えられる。
このような企業や社会の需要に応じ,アメリカには,企業法務専門の法律事務所(「ロー・ファーム」)がある。弁護士費用は時間制であり(「タイムチャージ制」),高額設定である。一つの法律事務所が弁護士1000人を擁(よう)することもまれではない(ちなみに,札幌市内の弁護士数は全体で300人強である。)。
そして,訴訟に勝つというニーズに応えるため,訴訟コンサルタント会社(「ジュリー・コンサルタント」)が繁盛しているそうである。証人尋問で陪審員(「ジュリー」)の感情を損(そこ)ねず,同情を得るため,当日着る服装についてまで徹底したアドバイスとリハーサルを行われるとのこと。
ちなみに,日本人の証人は,よく「ニヤニヤするな。」とアドバイスを受けるそうだ。日本人からすれば,余計なお世話であるが,日本人の表情は,今はやりの「グローバル・スタンダード」には合わないようだ。
実際の陪審員と人種,職業,性格等類似の者を集めて実際に評決までをさせる模擬裁判を行い,シュミレーションをすることもあるそうである。模擬裁判の費用は,1回あたり5万ドルが相場ともいわれる。
アップル社さえも実質的な傘下におさめたマイクロソフト社の総帥(そうすい)ビル・ゲイツ(Bill Gates)が,企業を発展させていく過程で,いかに多くの戦略的な訴訟を行っていたかは今や公知な話だ(彼の父親は弁護士だそうだ。全く関係ないと思うが,“ビルbill”には「訴状」という意味もある。)。
【番 外】
TVドラマ出演(当事務所での撮影風景):フジ
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