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20070110

2011年8月17日 21:24

〔裁判所名〕 札幌地方裁判所民事第1部判決
〔判決日付〕 平成9年1月10日
〔事件番号〕 平成7年(ワ)第5132号
〔事 件 名〕  交通事故に関する損害賠償請求事件
〔登載文献〕 判例タイムズ990号228頁

 

 

       主   文

 一 被告は、原告X1に対し金四〇七九万二六四〇円、原告X2及びX3に対し各二〇三九万六三二〇円、及びこ
れらに対する平成六年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
 三 訴訟費用はこれを一〇分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
 四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

       理   由

第一 請求
 被告は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し金六三六六万一六一一円、原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)に対し各金三一八三万〇八〇五円、及びこれらに対する平成六年七月一四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、信号機により交通整理の行われている交差点を青色表示に従って直進して通過しようとした普通乗用自動車が、左方から赤色表示を無視して同交差点に進入してきた普通乗用自動車に衝突され、被害車両の同乗者が死亡した事故につき、被害者の妻子が、自賠法三条、民法七〇九条に基き、加害車両の運転者に対して損害の賠償を求めた事案である。
 一 争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は争いのない事実である。)
  1 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
   (一) 発生日時 平成六年七月一四日午前六時三五分ころ
   (二) 発生場所 札幌市中央区北四条西一丁目四番地
   (三) 加害車両 被告が運転していた普通乗用自動車
   (四) 被害車両 A(以下「亡A」という。)が同乗していた普通乗用自動車(札五一の一六六九)
   (五) 事故態様 被害車両が信号機により交通整理の行われている交差点を信号機の青色表示に従い東から西へ直進通過しようとしたところ、被告が信号機の赤色表示を無視して加害車両を南から北へ運転して交差点に進入し、被害車両に衝突した。
   (六) 結果   亡Aは、外傷を負い札幌市立病院に入院したが、平成六年七月一四日午前七時三四分、外傷性ショックにより同病院で死亡した。
  2 法定相続
 原告X1は亡Aの妻、原告X2(昭和三四年一一月八日生、甲三)及び原告X3(昭和三八年五月二〇日生、甲三)はいずれも亡Aの子であり、ほかに亡Aの相続人はいない。したがって、原告X1、原告X2及び原告X3の各相続分は、順に二分の一、各四分の一の割合である。
  3 責任原因(自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条)
 被告は、加害車両を自己のために運行の用に供しており、赤信号の表示に従って停止すべき義務に違反した過失により本件事故を発生させた過失があるから、自賠法三条、民法七〇九条により、原告らの損害を賠償する義務がある。
  4 損害の填補
 原告は、被告から損害の填補として一二万一八三八円の支払を受けた。
 二 争点
 損害額全般
第三 判断
 一 損害額(各費目の括弧内は原告ら請求額)
  1 亡Aに生じた損害
   (一) 治療費(一二万一八三八円)
         一二万一八三八円
 亡Aは、平成六年七月一四日、札幌市立病院に入院して治療を受けたところ、その治療費は一二万一八三八円である(争いがない)

   (二) 逸失利益(八〇二三万九八二四円)
       四八一八万五二八〇円
 (1) 証拠(甲三、九、一〇、一一の1、2、一四ないし一六、一八ないし二一、二三ないし二六、二八、二九、三一、証人B)によれば、次の事実が認められる。
 ① 亡Aは、本件事故当時六一歳(昭和八年一月一六日生)の健康な男性で、昭和二七年四月に家具製作所に職人として就職し、昭和三一年四月には独立してC家具製作所を創業し、昭和四一年八月にはC家具製作所を法人化して株式会社Dを設立して
紳士服や婦人服等の衣料品の販売も手がけるようになり、昭和五八年二月に株式会社Dの商号をE株式会社(以下「E」という。)に変更した。平成元年には出資者を募って温泉ホテルの経営を目的とする株式会社F(以下「F」という。)を設立し、また、平成三年には、赤字が累積した有限会社の出資全部を引き取って有限会社G(以下「G」という。)に商号を変更し、平成五年にはEで扱っていた高級婦人服部門等を扱うようになった。
 ② 亡Aは、Eの発行済株式総数四万八八〇〇株のうち二万七〇四〇株(亡Aの家族が所有する分も合わせると三万四二五九株)を、Fの発行済株式総数四〇六株のうち八〇株をそれぞれ保有し、Gについては出資口すべてを保有するとともに、本件事故当時、右三社のいずれにおいても代表取締役をしており、業務全般の調整・総括から仕入れや現場の指導まで業務全般に従事していた。
 ③ 亡Aが死亡する前三期のE、G及びFの各業績(一万円未満切捨)はEにおいて、第二六期(平成三年二月一日から平成四年一月三一日)が売上高一三億七〇七一万円、営業利益四四三七万円、経常利益二四三万円及び当期純利益五八三万円、第二七期(平成四年二月一日から平成五年一月三一日)が売上高一一億八六五四万円、営業利益三三二六万円、経常利益一五四五万円及び当期純利益三八八万円、第二八期(平成五年二月一日から平成六年一月三一日)が売上高一〇億二一八
九万円、営業利益一九七万円、経常損失一八四二万円、当期純損失一五四一万円であり、Gにおいて、第四期(平成三年二月二一日から平成四年二月二〇日)が売上高九七七九万円、営業損失六一一万円、経常損失七〇〇万円、当期純損失七〇〇万円、第五期(平成四年二月二一日から平成五年二月二〇日)が売上高三二三三万円、営業損失五七五万円、経常損失五七六万円、当期純利益四五万円、第六期(平成五年二月二一日から平成六年二月二〇日)が売上高一億二九九三万円、営業利益一七五五万円、経常利益一六六六万円、当期純利益一六〇一万円であり、Fにおいて、第三期(平成三年五月一日から平成四年四月三〇日)が売上高一億二九九六万円、営業損失七三四万円、経常損失一三三五万円、当期純損失一三三五万円、第四期(平成四年五月一日から平成五年四月三〇日)が売上高一億三八二八万円、営業利益八四六万円、経常利益一一九万円、当期純利益一一九万円、第五期(平成五年五月一日から平成六年四月三〇日)が売上高一億四四六七万円、営業利益四四七万円、経常損失二三五万円、当期純損失二三五万円であった。
 ④ 亡Aは、平成五年度は、Eから八四〇万円、Gから一二〇万円の合計九六〇万円の報酬を受けており、Fについては、経営が黒字になるまでは役員報酬の受取を辞退するとの意向から報酬を受取っていなかった。同年度において、Eで亡Aに次いで収入の高い専務取締役であるB(以下「B」という。)の収入は五一七万五〇〇〇円であり、Bは、GとFの取締役も兼任し、Gから九六万円の報酬を受けていた。
 ⑤ 亡Aには身内にこれといった後継者はおらず、亡Aが死亡したため一時的にその妻がE及びGの代表取締役に就任したが、その後はBがEの代表取締役に就任し、平成七年からはGの営業をEが行っている。
 なお、本件事故当時、原告X2はすでに婚姻をし、亡Aとは生計をともにしていない。
 (2) これらの事実によれば、亡Aは、本件事故により死亡しなければ、満六一歳から満七一歳まで平均余命一九・六六年(平成六年簡易生命表)の約二分の一である一〇年間は働くことが可能であったと推認され、その間、少なくとも年収九六〇万円を下らない収入を得ることができたと認めるのが相当である。そして、亡Aの年齢、稼働状況や家族構成等を考慮すると、その間の生活費として三割五分を控除するのが相当であるから、それらを前提に、ライプニッツ方式(係数は七・七二二)により年五分の割合による中間利息を控除し、亡Aの死亡当時における逸失利益の現価を算定すると、四八一八万五二八〇円となる。
 9,600,000×(1-0.35)×7.722
 =48,185,280
 (3) 原告らは、Fにおいて、平成六年六月二三日に開催された取締役会において、翌七月から亡Aに対して月額三五万円の役員報酬を支給することが決議されていたのであるから、亡Aは本件事故に遭わなければこの分を加えた一三八〇万円を下らない年収を本件事故から一一年間にわたって得ることができたと主張し、証人Bも、亡Aは、Fについては、経営が黒字になるまでは役員報酬を受け取らないとの意向から無報酬であったが、平成六年六月二三日の取締役会において、減価償却等の損失分がそれほど大きくなく、第四期及び第五期の営業利益が黒字であったことから多少利益を生じる見通しがついたので月額三五万円の役員報酬を支払うことにし、取締役会議事録(甲一二)を作成する間に亡Aが本件事故により死亡したと、おおむねこれに副う供述をし、同趣旨のB及びHの各陳述書(甲二九、三二)も存在する。
 しかしながら、Fの業績について、たしかに第四期及び第五期と営業利益は出ているものの、第五期の方が半減し、第四期のわずかな経常利益も第五期では損失になっており、取締役会議事録作成の時期や体裁(同一人物が各取締役の署名をしている。甲一二)を併せ考えると、B証言やそれと同趣旨の前記各陳述書の信用性に疑問がないではなく、仮に信用できるとしても、右のとおりのFの業績に加え、経営が黒字になるまでは役員報酬を受取らないとの亡Aの意向を総合すると、本件事故に遭わなければ、亡Aが今後もこうした報酬を受け続けることができたとまではいえないというべきである。もっとも、亡Aの業務内容に照らせば、Fからある程度報酬を受取ってもおかしくはないが、死亡当時は現実に受取っていなかったのであり、E、G及びFの当時の業績に照らして予測されるところの将来の業績や、亡Aの年齢に照らした就労可能期間や就労程度等の不確定要素をも総合考慮すると、亡Aは、本件事故に遭わなかったとして、原告主張の一一年間はもちろん、平均余命の約二分の一である一〇年間であっても、その期間を通して死亡当時現実に得ていた年収九六〇万円を上回る収入を得ることができたとまで推認するには足りないといわざるを得ない。
 他方で、被告は、後継者のいない中小企業の代表者の大半は年金の下りる六〇歳まで現役で働き、その後は会長等の名誉職的立場に退いて実質的には働かないのであるから、就労可能年齢は六七歳までとし、六〇歳から六七歳までは賃金センサスによるべきであると主張するが、後継者のいない中小企業の代表者の稼働状況を裏付ける証拠はなく、亡Aは本件事故当時すでに六〇歳をすぎて健康かつ現役で働いていたのであるから、被告の主張は採用できない。
 被告は、会社役員の報酬中には、労働の対価以外に持株に対する利益配当部分が含まれており、役員が死亡した場合、その部分については、株式の相続人が利益配当として取得できるから、損害が発生したとはいえないとも主張するが、亡Aの稼働状況及び年収、Bの年収との対比、E及びGの業績等に照らすと、かえって、死亡当時得ていた収入は、すべて亡Aの労務の対価であると評価するのが相当である。したがって、この点においても、被告の主張は採用できない。
   (三) 慰謝料(二七〇〇万円)
           二四〇〇万円
 亡Aの受傷内容、死亡に至る経過、年齢及び家庭環境等の諸事情に加え、本件事故の態様をも考慮すると、本件事故による受傷及び死亡による慰謝料としては、二四〇〇万円が相当である。
  2 原告らに生じた損害
 亡Aの葬儀費(八五〇万八五六〇円)
            二〇〇万円
 甲第一三号証によれば、原告らは、亡Aの葬儀関係費用として八五〇万八五六〇円を支出したことが認められ、このような高額な費用がかかったのが、亡Aの年齢や職業上の地位(特に複数の企業の代表取締役であった点)によることは否定できないところであるから、このような事情をも考慮すると、本件と相当因果関係のある葬儀費用としては二〇〇万円が相当と認められ、弁論の全趣旨によれば、原告らはそれを各相続分に従った割合で負担したものと認められる。
 二 損害の填補
 原告らは、本件事故に関して自動車損害賠償責任保険から亡Aの治療費として一二万一八三八円の支払を受けており、弁論の全趣旨によれば、それは、原告らが有する損害賠償請求権にその相続分に従った割合で充当されたものと認められ、その結果、原告らが被告に対し、損害賠償として請求しうる金額は合計七四一八万五二八〇円(原告X1が三七〇九万二六四〇円、原告X2及び原告X3が各一八五四万六三二〇円)となる。
 三 弁護士費用(原告X1につき五七八万七四一九円、原告X2及び原告X3につき各二八九万三七〇九円)
 原告X1につき三七〇万円、原告X2及び原告X3につき各一八五万円
 原告らは本件損害賠償請求事件の追行を原告ら訴訟代理人に委任し(争いがない)、本件における認容額、審理の内容及び経過等に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては七四〇万円が相当と認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、原告らはこれを各相続分に従った割合で負担したものと認められるから、その負担額は、原告X1が三七〇万円、原告X2及び原告X3が各一八五万円である。
第四 結論
 以上によれば、原告らの各請求は、被告に対し、原告X1につき四〇七九万二六四〇円、原告X2及び原告X3につき各二〇三九万六三二〇円とこれらに対する平成六年七月一四日(本件事故発生日)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官山崎秀尚)