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上申書(差し戻し審)

2011年8月17日 20:14

平成21年第3●●号 慰謝料請求控訴事件
控訴人 X1外1名
被控訴人 Y
                                     
                    上    申    書
                            
                                                          平成22年4月2日

札 幌 高 等 裁 判 所 第 ● 民 事 部 御中

       被控訴人代理人弁護士   前田尚一 


 上記当事者間の頭書事件について,御庁は,平成22年4月15日午後1時10分の判決言渡期日を取り消し,同日午後4時を和解期日と指定したが,被控訴人としては全く納得できない措置であり,上記和解期日を取り消し,すみやかに判決言渡期日を指定されたく,上申する。その理由は,次のとおりである。
 なお,本上申は,訴訟運営についての被控訴人の希望を述べるものであって,新たに主張を追加し,又は従前の主張を補充するものではなく,弁論の再開を求める趣旨のものではない。

1 被控訴人は,一貫して和解について消極的姿勢を明らかにしていたところであって,平成22年3月26日の和解期日で,被控訴人の最終的結論として和解する意思がないことを明確に表明したにもかかわらず,冒頭記載のような措置が執られたことは,被控訴人及び訴訟代理人としては,極めて遺憾なことである。

  御庁は,第1回口頭弁論期日において,即日弁論を終結したうえ,和解勧告をし,同日引き続き,受命裁判官によって事実上の面談・協議(?)が実施された。
     当職は,被控訴人との事前の打ち合わせを踏まえ,被控訴人が和解について消極的であることを表明し,被控訴人側から和解案を提示する考えもないことを明らかにした。なお,当然のことであるが,その際,受命裁判官に対し,この結論は,単に当職の弁護士としての見解にとどまらず,被控訴人との協議に基づくものであることを十全に説明したつもりである。
     しかし,受命裁判官からは,控訴人らが次回までに和解案を提示する意向であるので,この場で和解を断ることは控え,控訴人らから和解案を見るだけ見てから最終判断として欲しいと強く要請されたので,当代理人としては,裁判所の立場を尊重して,これを受け入れた。

  平成22年3月4日の和解期日において,控訴人らから控訴人X1作成の別添の和解案が提示されたが,本件紛争の経緯及び施設における労使関係の現状に照らすと,被控訴人としては,受容できる内容ではなかったし,さりとて,これを前提として(つまり,その本質的部分の同一性を維持する前提で)対案を提示することは形式的にも無理であることが一見して明らかであった。
     そこで,当職は,受命裁判官に対し,和解による訴訟の終了については,もともと消極的であることを再度申し述べた上,控訴人らからの和解案を見た現時点でも,同様であることを表明した。
     しかし,それでも,受命裁判官は,直ちにこの場で断るのではなく,一旦は持ち帰り,被控訴人と検討するプロセスを経て欲しい旨要請したので,持ち帰ったとしても被控訴人としての結論が変わりようがないとの限りなく既成に近い予測を述べ,次回提示する回答を最終的結論として受け入れて欲しい旨を明らかにしたうえ,裁判所のたっての要請としてやむを得ないものとして持ち帰った。
   
  そして,被控訴人の意向を確認したが,やはり,被控訴人の最終的結論を変更する余地はなく,平成22年3月26日の和解期日において,これを伝えることとし,同期日において,和解勧告が打ち切られ,第1回口頭弁論期日で指定された期日に,破棄差戻し後の控訴審としての判決が言い渡され,ようやく長年の訴訟が終息するものと確信していた。
     ところが,当職の身体に故障が生じ,被控訴人の最終的結論を裁判所に伝えるよう復代理人に託しところ,受命裁判官は,復代理人の発言に全く耳を貸そうとせず,判決言渡期日を取り消す旨宣告した上,同日を和解期日として指定した。
   
  和解に応じない当事者の意思が明らかである場合には,裁判を受けることはは,憲法上保障された国民の権利であり,たとえ裁判所が和解による方が紛争の実情に即した解決につながると信じる場合であっても,和解期日を繰り返すことは,裁判制度の利用を不当に制限することになりかねないから,そのような処理は厳に避けなければならないというべきところ,以上の経過から明らかなとおり,本件は,和解による方が紛争の実情に即した解決となるとする受命裁判官の見解が適切であるかはともかくとしても,被控訴人が和解による訴訟の終了には消極的であることを明らかにし続けていたことに加え,平成22年3月26日の和解期日で,最終的結論として和解する意思がないことを明確に表明したにもかかわらず,いきなり平成22年4月15日午後1時10分の判決言渡期日を取り消し,同一の日時を和解期日と指定する措置をとったことは,不相当であるというほかない。


2 そればかりか,上記措置に至るまでの受命裁判官の和解勧試の方法は,被控訴人の考えを全く軽視する強引なものであって,著しく不相当なものであるといわざるを得ない。
   すなわち,当職は,平成22年3月26日の和解期日に先立ち,被控訴人との間で最終的な結論を再確定していたが,身体の故障のため同期日に出頭できない事情が発生したため,同最終的結論の表明を訴訟復代理人に託し,同復代理人は,その役割を果たそうとした。
   しかるに,被控訴人としては,和解期日を繰り返すものと考えざるを得ない状況ではあったものの,受任裁判官は,同期日までは,念のため持ち帰って欲しいとか,それまで対案だけでも提示して欲しいという説得にとどまっていたが,同復代理人が当職のメッセージを伝えた途端,被控訴人代表者又は本件に詳しい関係者の話を聞きたいとか,任意に応じないのであれば別の手続で出頭させることもできるし,とにかくこれらの者に話を聞きたいというのが合議体で達した結論である,合議体が一度話を聞きたいという意向を持っていることを重く受け止めて欲しいなどと,発言するに至った。
   同復代理人は,当職に何度も携帯電話にて状況を知らせ指示を求めながら対応したものの,結局,受命裁判官に押し切られ,冒頭の措置が執られることになった。
   受命裁判官の発言が,どこまでが合議体でのコンセンサスに基づくものであるのかは判然とせず,「別の手続」の中身も明示していないが,破棄差戻し後の控訴審である御庁が弁論を終結したにもかかわらず,弁論再開の上,被控訴人代表者本人尋問を実施することまでも示唆しようとしたものではないであろう。
   しかし,たとえ民訴規則32条1号に基づく当事者本人の出頭命令を想定した発言であったとしても(そうであるなら,そう明示すればよいとも思うが。),本件訴訟の経緯,本件紛争の性質に照らすと,被控訴人代表者に出頭を命じることはもちろん相当ではないし,これを示唆する発言をすること自体が,被控訴人と訴訟代理人が長年築き上げてきた信頼関係を軽視するものであることに加え,強制的な言辞を使用する説得行動ともとられかねない不適切な和解の勧め方であるといわなければならない(なお,旧民訴法においては,136条2項の規定があったが,同項に基づく出頭命令は,任意の協力を求めるものであり,和解手続における付随的な事項であることから,規則化することになったものであって,安易,便宜的に利用すべきものではない。)。
   すなわち,同条項は,訴訟代理人が和解の特別委任(民訴法55条2項2号)を受けていない場合のみを対象とするものではないとしても,本来的には,形式的には委任関係があっても,訴訟代理人と当事者本人の意思疎通が欠落し,訴訟代理人の行為に当事者本人の意思が反映されていないと窺われるような場合であるとか,訴訟代理人があまりに無能で全く頼りなく,裁判所が後見的役割を果たさなければ当事者の利益が損なわれるような場合を想定していると考えられる。
   しかしながら,後者に当たると指摘されるならば反論のしようはないが,少なくとも,当職と被控訴人は,本件紛争発生後において,本件紛争についてはもとより,それ以前から労使関係に係る問題全般について,議論や検討を重ねてきたものであり,本件差戻し後も,度重なる打合せを経て期日に臨んでいる。
   しかるに,上記のような強制的とも思われかねない示唆をしてまで和解を成立させようとする受命裁判官の対処は,長年に亘って当職と被控訴人が培ってきた信頼関係と随時行う慎重な検討を全く軽視するものであって,畢竟,被控訴人の確定した意思を蔑ろにするものというほかない。


3 ところで,本件上告審判決は,言渡し後直ちに裁判所のWebサイトに登載掲載されたことに加え,破棄差戻し後の控訴審である御庁の第1回口頭弁論期日に前後して,判例タイムズ第1313号(平成22年2月15日号)115頁,判例時報第2063号(平成22年3月1日号)6頁で,速やかに紹介されている。

   上記判例誌においては,解説者の批評が判決内容に及ぶ場合であっても,《やや問題がある》などと控え目にされるのが通例と思われるが,上記の解説においてはいずれも,《本判決において指摘された事情を勘案すれば,本訴の提起が不当訴訟に当たらないとした判断は相当であろう。原審の判断は,提訴者に高度の調査,検討義務を課するものあって,裁判制度の自由な利用の確保という観点からは,疑問があるものといわざるを得ない。》《訴訟の前提となる権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を全く欠くものではなかったとしても,提訴者に害意や嫌がらせなどの不当な目的があった場合にはなお,これが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとして,不法行為に当たるか否かを検討する余地があるものと思われる(文献略)が,本件は,そのような事案でではないことが暗に示唆されているものと思われる。》と評釈されている。
   また,上告審判決が,《従来の枠組みを踏襲するものであ》るとしながらも,同判決の説示が,《本件が,報道により信用又は名誉が損なわれた事案であることを示》していると評釈している。
 
   上記評釈内容は,極めて常識的なものであると考えられるが,破棄差戻し前の控訴審が,被控訴人らに対する計画的な嫌がらせ行為として組織的に行われたものとまではいえない旨認定していながら,反訴請求を全部認容すべきものとした判断をした一方,第一審は,控訴人らが嫌がらせ行為と主張した行為の存在は認定しながらも,控訴人らの請求を棄却する判断をしていたことも併せ考慮すると,破棄差戻し後の控訴審である御庁は,職員からの情報提供等を端緒として掲載された新聞記事により,信用は又名誉が損なわれた場合において,使用者の従業員に対する嫌がらせ行為の存否,損害の有無又は金額が争点となっている事案において,後の事件の指針になる事実審としての判断を示す役割を担っているというべきである。
 
 
4 受命裁判官は,その都度,将来の労使関係の安定を念頭に置く必要性を強調し,和解によって解決するのが適切であると繰り返してきた。
   しかしながら,被控訴人としては,本件の背景となる労使関係に係る事情は,訴訟追行に必要な範囲に限定して控え目に主張・立証してきたものであって,訴訟資料などによって顕出された背景事情も極めて断片的なものにすぎず,それにもかかわらず,唯一和解こそが解決のみちであるかのように発言には,大きな違和感がある。
   被控訴人としては,特に,差戻し前の控訴審で和解勧告を拒否したのは控訴人らであり,その結果,裁判制度の利用を不当に制限する結果となりかねない内容の差戻し前の控訴審判決が言い渡され,上告受理を申立ててようやく正当な判断を得ることができたという訴訟の経過に加え,施設内において労働組合が結成され以降の労使の関係,本件紛争発生前後の状況,本件紛争発生後の労使間の団体交渉等,控訴人らの外部での活動の実情その他の労使関係の状態に照らすと,本件は和解によって訴訟を終了させる事案ではないと確信している。
   そして,この認識は,当職と被控訴人の共通認識であり,当職としては,このことを受命裁判官に伝えてきたつもりであったが,意に解して貰えなかったことは残念というほかない。
   訴訟上の和解を可能にするためには,何よりもその前提として当事者の裁判所に対する信頼がなければならないと考えるが,これに疑義を持たざるを得ないような対処は厳に慎むべきであると考える。
   被控訴人らは,上告受理申立て理由書において,次のとおり述べたが(申立ての理由中排除されなかった部分),被控訴人が和解に応じないとの意思を明らかにしているにもかかわらず,さらに,和解期日を繰り返すことは,裁判制度の利用を不当に制限することになりかねないという点で,破棄差戻し後の控訴審において,破棄差戻し前の控訴審の轍を踏まれることになりかねないというべきである。
      「・・・そうであるにもかかわらず,申立人の訴え提起を,《・・・・・・権利の存在につきわずかな調査をしさえすれば理由のないことを知り得た》などと説示するのは,申立人が,突如起こった虐待疑惑の中で右往左往しながら,素人で稚拙ながらも何とか真実を確認しようと努力してきたことに一顧だにせずに無視するものにほかならず,独断的な判断というほかない。
       高等裁判所民事部が2箇部しかない高裁管内においては,上記のような判断が,裁判官,殊に裁判長の考え・個性によって安易にされれば,管内での控訴提起が萎縮抑制され,裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となりかねない。
       なお,原審で取り調べられたA施設長の証言中には,確かに思い込み甚だしいと評価されてもやむを得ないものもあるが,それは,事実そのものではなく,判断過程,意見に関わる部分であって,原判決中に,敢えてA施設長の供述を基に縷々事実認定をする一項を設けて,申立人に不利な結論を導く材料とするまでもないと考えられ,申立人の立場としては,A施設長の証言態度に対する過剰反応と思わざるを得ない。」
 
5 そして,被控訴人には,平成22年3月26日の和解期日の後に明らかになった事情であるが,受命裁判官が挙げる和解の利点自体が既に消滅したことを述べておかなければならない。
   すなわち,控訴人X2は既に施設を退職していたところ,控訴人X1は,上記和解期日終了後その日のうちに,施設長に面談を求め,同月3月31日をもって退職したい旨の被控訴人に対する退職届を提出した。
   しかも,その際の控訴人X1の説明によると,既に4月以降の勤務先も決まっているとのであった。
   このことについて,これ以上の論評は控えるが,いずれにしても,労使関係において,集団的場面においても,個別的場面においても,受命裁判官が強調してきた和解の利点は,既に抽象的にも消滅しているといわなければならない。


6 以上のとおり,被控訴人は,和解期日が重ねられたものの,和解勧告以来一貫して消極的態度を明らかにしてきたのであるから,併行して,指定した判決言渡期日に判決言渡しができるよう準備がされていてしかるべきものと考えるが,仮に予定どおり判決言渡しをすることが不能であるとしても,直ちに和解を打ち切り,速やかに判決を言い渡すことを強く希望する。
   被控訴人及びその訴訟代理人としては,熱心に勧告した和解が不成立になったからといって,裁判所の判断に影響が及ぶことはないものと確信しているが,上告審において破棄され控訴人らが撤回した主張部分を除いても,慰謝料請求を過大に認容できるとして,上告受理さえも封ずる技巧的な判決がされることもないことを期待し,本上申に及ぶものである。
                                                                                               以上