札幌の弁護士 前田尚一法律事務所 > 事務所紹介 > コラム

コラム

2015年12月アーカイブ


 こんにちは。弁護士の前田尚一です。
 もし,法律問題の心配,悩みをお持ちでしたら,このメールをご返信くださ
い。


 さて,今回のテーマは,


                      《訴訟を戦略的に利用する!》

 次のお話は,島田紳助さんが,あの事件が報道された後,引退したり,名誉毀損裁判を提
起したばかりのころに公表したものです。

 しかし,今考えても,次のようなページを,やや深読みすると,当時のその
ような対処は,よい方向へ向かうために,引退は最善の選択でしたし,名誉毀
損裁判の提起は有効な手段であったと思います。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


―― 島田紳助さんが,例の事件後しばらくして,名誉毀損で出版社を提訴し
  ました。
   いよいよ追い込まれたということですか。


前田  そうは思えません。

   芸能界への復帰作戦のことを考えると,現在の状況では絶妙のタイミン
  グで訴訟提起したと思います。


―― どうしてですか。


前田 不祥事報道をされた場合,特に大手の場合,灰色と言われながらも人々
  は黒に近い印象を抱きます。まさに有罪の推定です。

   10年ほど前,ある市議会議員の依頼で,新聞社に対する名誉毀損事件
  を担当しました。

   詳細は,私の事務所のHPをご覧頂ければと思いますが,新聞に業者と
  の癒着に関する記事が掲載された事案です。

     ⇒ http://bit.ly/TpEWfl
 
   この議員は,市民の集まりの場で,

       「○○新聞が間違うはずがない。」
       「潔白だというのなら証明しろ。」
  
  と詰め寄られたそうです。

   しかし,本来は事実があったという側に立証責任があるのが通例。
   実際にあった事実を証明することに比べ,事実がなかったことを証明す
  ることは,「悪魔の証明」と言われるほどとても難しいことです。


―― 裁判手続の中で,報道された側としては,報道した側が事実を証明でき
  ないことが明らかになるので,事実に白黒をつけるということですね。


前田 そればかりではありません。

   むしろ,絶妙のタイミングと言ったのは今,訴訟提起することにより,
  報道は誤りだという自信と確固たる姿勢を表明し,世間の心証を白の方向
  にシフトすることができます。

   しかも,所属していた会社が一緒に裁判を起こすということになれば,
  見放されていないことが印象付けられる上,多数の売れっ子タレントを擁
  するこの会社の業界での影響力は絶大ですから,テレビ局やタレント達も
  うかつに島田さんが不利になるような発言や行動はできない。

   まさに「戦略訴訟」という側面が顕著です。


―― 島田紳助さんの請求が棄却されたことは,どのように考えればよいので
  しょう。


前田 そのことは,やや難しい考慮も必要なので,後日機会があったら,そっ
  とお知らせしましょう。


―― とりあえず,よいことばかりですね。


前田 そうとも言えません。安易な訴訟提起は自分を苦しめることにもなりま
  す。

   有名人が,公的地位や社会的地位を確保するという面では,状況と作戦
  次第で有効な手段となる場合があるということです。

   しかし,個人的には鉄のような強靱な意思が必要です。「人の噂も75
  日」といわれますが,多くの場合訴訟が終わる頃には世間は忘れています
  が,白黒がつくまでの間,本人の精神的負担はとても大きい。

   先ほどの市会議員の案件でも,当時としては高額の賠償額で勝訴しまし
  たが,心労が継続していました。

   訴訟を起こす場合は,その戦略としての役割と負担をきちんと検討しな
  ければなりません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           弁護士前田尚一の理念


  "白黒つけない"パワハラ対策

 今回は,前・後編にわたり某企業の部長A氏からの相談を紹介します。

 対岸の火事ではない「パワハラ」がキーワードです。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



A氏 「パワー・ハラスメント」は「セクハラ」と同様,加害者本人だけでな
  く会社も損害賠償責任を負うのでしょうか。

前田 はい。
   使用者責任(民法715条)や職場環境配慮義務違反(労働契約法5条)
  に基づきます。

   ちなみに厚生労働省が2012年1月に公表した「職場のいじめ・嫌が
  らせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では「職場のパワ
  ーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関
  係などの職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて,精神的・身
  体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と示されています。

A氏 しかし,裁判例をみても損害賠償義務が発生する場合とそうでない場合
  があり,また,その基準が「・・・を総合考慮のうえ」とか「・・・職務上の地
  位・権限を逸脱・濫用して,社会通念に照らした客観的な見地から見て」
  などと抽象論ばかりでよくわかりません。

前田 そうですね。
   ハラスメントの範囲は曖昧です。その一方で,職場であっても上司によ
  るものではないとか,陰湿な非有形力によるものが「パワハラ」と区別さ
  れた「モラル・ハラスメント」(モラハラ)も社会問題化しており,違法
  対象は拡大されつつあります。

   裁判所は社会問題化されたことを扱うとはいえ,その本来の役割は実際
  に訴訟となった特定の事案について事後的な客観的判断によって白黒をつ
  けることです。

   つまり,裁判所に日々現場で起こる事案の明確な判断基準の提示を期待す
  ることが間違っているのです。

A氏 それでは予防も解決もできないじゃないですか。

前田 いいえ。
   むしろ企業は白黒つけようとする発想を捨てたほうがいいです。

   単に違法かどうかという面ばかりに目を奪われず,加害者対被害者とい
  う単純な図式で捉えられ一人歩きしかねないトラブルをどう回避するかが
  重要です。

   ハラスメントは被害者側の主観に大きく左右されることは否定できませ
  ん。

   またパワハラはメンタルヘルス問題にもつながり易く解決の難しさがあ
  ります。

   しかもブラック企業と烙印を押されてしまうと,人材採用も妨げること
  にもなりかねません。

   だからこそ綿密に対策を練る必要があります。

A氏 当社では,労務コンサルタントの指導を受けながら,従業員対象にセミ
  ナーを実施したり,相談窓口を設置したりして事前措置に万全を期してい
  るのですが・・・。

前田 もしやパワハラ問題が現実に発生したのではないですか。
   その解決策も含め,根本的に考え方を改める必要がありそうですね。

   その点は次回。

PageTop