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コラム

2016年5月アーカイブ

カリスマ経営者と事業承継問題

-- 成功した経営者の特徴には,どんなものがありますか。

 前田 結論からいうと,事業のすべてをコントロールし続けたことです。アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ペゾスは起業当初,ほとんど会社を離れず,重要な仕事はすべて自分でこなしていたのは,その典型でしょう。

-- 企業は経営者だけで成り立っているわけではありません。

 前田 経営者が組織,端的に言えば,他人の力を借りる必要があるのは確かです。成功哲学の祖といわれるナポレオン・ヒルは著書,『思考は現実化する』(きこ書房)の中で,世界の自動車王ヘンリー・フォードの逸話を紹介しています。とある新聞社がフォードを"無知な平和主義者"と論評。名誉毀損(きそん)で裁判となりました。法廷で新聞社側の弁護士は,フォードが無知な人間であることを証明しようと,一般知識の質問攻めにしました。フォードは,「自分のデスクの上にたくさんのボタンがあり,必要としている知識を持った部下がすぐ来てくれる。なぜ一般的知識を詰め込んでおく必要があるのか」と述べています。企業が大きくなれば組織の拡大は自然なことです。しかし,卓越した経営者は,すべてをコントロールできる仕組みを作り,組織や人を活用しています。トップは孤独といわれますが,自分の置かれた状況を直視し,冷徹に乗り越えているのです。そういう意味では,昨年末に死去した北朝鮮の金正日総書記がタイムリーな話題です。

-- 国家の代表を,企業の経営者として捉えるわけですね。

 前田 はい。金正日は,善悪という視点を別とすれば,見事なリーダーともいえます。存命中,国際的にも国内的にも極めて危機的な状況にありながら,自国を完全にコントロールしきったわけですから。民衆からの私刑で命を落とした,リビアのカダフィー大佐とは一線を画しています。2人とも,享年が満69歳。ポル・ポト,フセインらと同じという独裁者の不思議な偶然を感じますが・・・。

-- 有能なトップが急死したあとは,後継者問題が浮上します。

 前田 卓越した経営者が事業を完全にコントロールすることができた背景には,固有のカリスマ性や経営者個人のパーソナリティーが大きな役割を果たしています。事業承継というと,遺言書の作成とか節税対策といったことに目が奪われがちですが,実は経営者個人のパーソナリティを代替することが最も重要なのです。金正日後継となる金正恩の権力掌握が進むかどうかは,この継承が上手くいくかどうかです。当事務所では,本気で事業承継対策を考えている経営者の方を応援しています。
嫌なら遺言は作らない方がよい!!

-- 最近,新聞などで相続関係のセミナーの開催広告が目立ちます。

 前田 相続について関心が高まっています。後に述べる遺言公正証書の作成件数で見ると,2006年は7万件を超えました。25年前の約2倍です。その後も増加し続け,09年には8万件以上です。
 しかしセミナーの中には,生命保険の販売を目的としたものもあります。生命保険の代理店をしている税理士事務所もあるほどです。
 相続税対策として生命保険の効用は軽視できませんが,自分にとって何が必要なのかを総合的,具体的に考えなければなりません。

-- 経営者,資産家は相続争いとならないよう,きちんと遺言を残すことが重要ですね。

 前田 そうは思いません。生前に「死」を考えること自体が不安で心痛なことです。気分が悪くなることを敢えてする必要性など全くありません。死に対する嫌悪を克服し,本当に遺言を残す必要があると決意した人だけが作ればよいと思います。

-- 決意が固まれば,後は法律に定められたルールに従って遺言を作ればよいのですね。

 前田 実は,そのルール自体が難しいのです。遺言には自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言がありますが(ほかに,船舶遭難者遺言など特別方式と呼ばれる3種類の遺言もあります),署名・押印などで,それぞれ厳格な要件が定められています。例えば,自筆証書遺言の場合,日付けを「○年○月吉日」と記したために無効となった事例があります。
 私は,遺言を残すと決意した以上,万全を期して公正証書遺言を作成するべきであると考えています。公正証書遺言は公的立場にある公証人が作成し,公証役場で保管されるので安全で確実です。方式の不備で無効になったり,改ざんされたり,紛失するおそれがありません。

-- 注意すべき点はありますか。

 前田 公証人は本来,依頼者が決めた内容を遺言として作り上げるのが仕事です。財産が多岐に渡り,誰にどのように分けるか難しいなど複雑な法律問題が絡むような場合は信頼できる専門家と時間をかけて遺言の中身を検討しておく必要があります。また,高齢者の場合,公正証書遺言であっても,無効とされた事例もあるので注意が必要です。
 当事務所は,死後に憂いを残さないよう,自ら遺言を残すと決意した人を全面的に応援しています。
訴訟を戦略的に利用する!

-- 島田紳助さんが名誉毀損で出版社を提訴しました。いよいよ追い込まれたということですか。

 前田  そうは思えません。前回芸能界への復帰作戦の話をしましたが,現在の状況では絶妙のタイミングで訴訟提起したと思います。

-- どうしてですか。

  前田 不祥事報道をされた場合,特に大手の場合,灰色と言われながらも人々は黒に近い印象を抱きます。まさに有罪の推定です。
 10年ほど前,ある市議会議員の依頼で,新聞社に対する名誉毀損事件を担当しました。詳細は,事務所のHPをご覧頂ければと思いますが,新聞に業者との癒着に関する記事が掲載された事案です。この議員は,市民の集まりの場で○○新聞が間違うはずがない。潔白だというのなら証明しろと詰め寄られたそうです。
 しかし,本来は事実があったという側に立証責任があるのが通例。実際にあった事実を証明することに比べ,事実がなかったことを証明することは,悪魔の証明と言われるほどとても難しいことです。

-- 裁判手続の中で,報道された側としては,報道した側が事実を証明できないことが明らかになるので,事実に白黒をつけるということですね。

 前田 そればかりではありません。むしろ,絶妙のタイミングと言ったのは今,訴訟提起することにより,報道は誤りだという自信と確固たる姿勢を表明し,世間の心証を白の方向にシフトすることができます。しかも,所属していた会社が一緒に裁判を起こすということになれば,見放されていないことが印象付けられる上,多数の売れっ子タレントを擁するこの会社の業界での影響力は絶大ですから,テレビ局やタレント達もうかつに島田さんが不利になるような発言や行動はできない。まさに「戦略訴訟」という側面が顕著です。

-- よいことばかりですね。

 前田 そうとも言えません。安易な訴訟提起は自分を苦しめることにもなります。有名人が,公的地位や社会的地位を確保するという面では,状況と作戦次第で有効な手段となる場合があります。しかし,個人的には鉄のような強靱な意思が必要です。「人の噂も75日」といわれますが,多くの場合訴訟が終わる頃には世間は忘れていますが,白黒がつくまでの間,本人の精神的負担はとても大きい。前述の市会議員の案件でも,当時としては高額の賠償額で勝訴しましたが,心労が継続していました。
 訴訟を起こす場合は,その戦略としての役割と負担をきちんと検討しなければなりません。
 当事務所では,マスコミ対応の組み立てなども含めこの種の案件を取り扱っています。
不祥事報道-マスコミ対策の極意!

 --最近,大手企業が不祥事を起こし記者会見をする例が多く見られます。企業の正しい対応について,法的観点から教えて下さい。

 前田 正しい方法論といったものはありません。事実をきちんと確認して,適切な対処を積み重ねるしかないのです。参考になるのは,島田紳助さんの記者会見です。

 --島田さんは,多くのレギュラー番組を降板して引退するハメに陥りましたが。

 前田 不祥事などの報道があると,世論はマイナスイメージを持ちます。事実はどうであれ,ジタバタすると,さらに世間の信用を失っていきます。菅直人元総理がその典型です。島田さんは,いさぎよく引退することを世間に印象付けました。短い記者会見の中で,本来は引退しなくてもよいが,大物タレントや後輩のラブコールの中,惜しまれつつ退くという場面を作り上げたのです。
 もし島田さんが,タレント業に固執したなら取材の嵐に巻き込まれ,世間に見苦しい態度をさらすことになったでしょう。しかし,引退したので取材に応じる必要はありません。島田さんが,今後芸能界への復帰を想定していたのであれば,見事な記者会見と言えます。

 --島田さんはカムバックできるということですか。

 前田 それは別問題です。今後,事実としてどのようなことが明らかになるかによります。申し上げたいことは,あの時点でできる対応としては,最善であったということです。

 --自滅すれば復活の機会すら失うということですね。

 前田 そのとおりです。不祥事の初期対応を誤り,小さな失言からグループの解体・再編に至った雪印乳業のような例もあります。
 一方,不祥事をテコに企業イメージを向上させた会社があります。テレビ通販のジャパネットたかたです。同社の2003年の売り上げは705億円でしたが,04年に51万人分の顧客リストの流出事件を起こし,売り上げが663億円にまで落ち込みました。しかし事件後,テレビや新聞で謝罪を繰り返し,昨年の売り上げは1759億円に到達し,消費者に適切な対応をしたことが評価されました。

 --すぐに謝罪するのが決め手ですか。

 前田 そうとも限りません。世間の風潮に流されず信念を貫くべき場合もあります。不祥事後に,どのように新たな企業イメージを作り上げるのか構想した上で,効果的な応急措置を選ぶということです。その場合,やはり手慣れた専門家に相談する必要があります。当事務所では,マスコミ対応の組立てなども含めこの種の案件を取り扱っています。
お手軽ツール第二弾,「公正証書」を知る!

-- 前回紹介した「内容証明郵便」のほかに,お手軽なツールはありますか。
 前田 「公正証書」をご紹介しましょう。企業を経営していると,売掛金や貸金等の債権があるのに,言い訳するばかりで,支払をしない債権者と対立することがあります。取りっぱぐれてしまうという事態回避するため,債務者に支払い能力があるうちに,強制的な方法で債権の回収をしてしまわなければなりません。あらかじめ「強制執行認諾条項」と呼ばれる決まり文句を入れた「公正証書」を作っておくと便利です。提出すると,一定の事務的な手続をすれば,裁判所で不動産競売,債権差し押さえなどの強制執行の手続を採ることができます。

-- 契約書を作成しておいただけではダメなのですか。

 前田 契約書は,トラブルが発生した場合の証拠としてはとても有用です。ただあくまで私人が作成する書類です。「公正証書」のように,事前に,公に権利関係が確定されているものではありません。契約書の場合,強制執行の手続きに入る前に,まず法律関係を公に確定することが必要です。訴訟を起こし,主張立証を尽くしたうえで,裁判所の勝訴判決を得るなどの面倒な作業が必要となります。さらに債務者が支払いを免れようとして争ってくる場合もあり,時間がかかってしまう。権利関係が確定する前に,債務者の資力がなくなってしまうことも予想されます。

-- 公正証書の使い道は,ほかにどんなものがありますか。
    
 前田 遺言や離婚の場面で用いられることが少なくありません。遺言書は自分で書くこともできますが,書き方のルールが厳しく,紛失の心配もあります。「公正証書遺言」にしておくと,法律の定めにきちんと従って作成されますし,公証役場で保管されるので安心です。高齢者の遺言は後日有効性が争われがちですが,「公正証書遺言」にしておくと,証拠力が高まるといってよいでしょう。
    また協議離婚する場合に取り決めた養育費,慰謝料,財産分与等の離婚協議書を作成する場合,「離婚給付契約公正証書」にしておくと,売掛金等の場合と同様,強制執行するまでの手間が少なくて済むので重宝されているようです。

-- 公正証書を個人で作成することはできますか。

 前田 公証人は,裁判官や検察官等のOBです。法律について適切なアドバイスを受けることができます。インターネットや電話帳で公証役場を探し,まずはご自身でやってみてはいかがでしょうか。高齢者や,複雑な法律問題を含み,手に負えないと思った場合は,気軽に当事務所にご相談ください
お手軽ツール,「内容証明郵便」を知る!
                                             
 ――「内容証明郵便」という言葉をよく聞きますが,どのようなものですか。

 前田 文書の内容と差出日(発送した日)を,郵便局が証明する郵便です。例えばクーリング・オフを利用する場合,一定期間内におこなう必要があります。このような時,業者と後日,紛争が起きることを想定して,内容証明を用いるのがよいでしょう。
 債権が時効によって消滅するのをストップさせる(時効の中断)場合,配達日が重要となるので,「配達証明」というオプションをつけてください。売掛金などの債権を譲り受けた際なども,「配達証明付きの内容証明郵便」を使うのが適切です。
 内容証明郵便は普通郵便に比べ,相手方に対するインパクトが大きいので,重要な内容の通知などに活用されています。記事の最後に具体例のアドレスを掲載しますので,イメージをつかんでください。

―― 素人でもできるでしょうか。

 前田  内容証明郵便は,弁護士に依頼しなくても活用できる定番のツールなんです。
 基本的なルールは,縦書きと横書きで違いますが,縦書きの場合,用紙1枚は,20字×26行以内で作成します。郵送用以外に,自分と郵便局での保管用に同じもの3通を郵便局に提出してください。使用文字,字句の訂正など他にもルールがありますが,文房具屋で売られている内容証明郵便セットを購入し,同封されている説明書に従って進めば,初めての方でも,十分対応できます。ほかに電子内容証明郵便サービスというのもあります。

―― 料金はいくらかかりますか。

 前田 書留郵便料金(420円)と通常郵便料金(定型25gまで80円)に加え,内容証明料がかかります。内容証明料は文書1枚なら420円で,1枚増すごとに250円ずつ加算されます。配達証明の加算料金は300円です。配達証明付きの内容証明郵便を1枚出すと,合計で1220円かかることになります。

―― 注意すべき点はありますか。

 前田 いわば"宣戦布告"の文書と見られることが多いです。相手方が感情的になることも考慮して,作戦を立てる必要があります。内容については,もちろん法律的な裏付けが必要です。例えば,配達証明付きの内容証明郵便を送り続けたからといって,売掛金がずっと時効で消滅しないということになりません。不適切な例として,賃料請求や債権譲渡を受けた場合を挙げておきます。参考にしてください。 ⇒ http://bit.ly/oSjWvq
債権回収しなければ,自滅する!
                                             

 ――不況で債権回収が上手くいかない例が増えているようですね。

 前田 売り上げを出すためには経費がかかります。利益率5%の会社で,100万円の焦げ付きが発生した場合,最低でもその20倍,2000万円を売り上げなければなりません。額面通り100万円稼ぐだけでは,資金繰りは悪くなる一方です。一般向けに債権回収の法的手段を解説した本もありますが,あまり役立たないようです。

―― 債権回収は難しいのですね。

 前田 債権回収に万能な方法はありません。事例に応じて個別に吟味する必要があります。債権の種類に応じて適切な回収方法を選択することが肝心です。債権の中でも売掛金や請負代金などは,深追いしてはいけません。不況の影響などで,対象となる会社の経営状態が悪化し,支払い能力がないこともあるからです。ただ,不況の影響が比較的薄いと考えられる債権もあります。例えば病院などの診療債権。特に美容外科や審美歯科の治療です。自費診療・保険外診療は,患者に支払い能力があるのに「払わない」という例が多い。ペット病院の診療の場合も同様です。今まであきらめていたものも,適切な時期に,機械的に回収するための方策をとれば,かなりの回収が期待できそうです。
 
 ――不動産業者やマンションのオーナーなどの場合,滞納家賃の回収に悩むことが多いようです。

 前田 賃貸マンション経営・管理では,多数の賃借人を継続的に相手にしていきます。回収の工夫が必要です。特に家賃滞納が起きた場合は,いかに早く回収に動くかが重要です。きちんと対処すれば,家賃回収の悩みからかなりの部分が解放されそうです。また家賃の滞納額が増えている場合,どのタイミングで明け渡しを求めるかも重要です。家賃を3か月滞納しているような場合,もはや不可能と考えていいでしょう。そのまま家賃の不払いを放置しておくと,別の賃借人に貸せば得られたはずの収入を自ら捨ててしまうことになります。ただ,家賃催促のために,鍵の交換や貼り紙など一定の行為は違法ですので,注意して下さい。

 ――弁護士に依頼した場合は費用が心配です。

 前田 弁護士費用は事務所によって違います。当事務所では,債権回収の場合,回収額に応じた成功報酬を得るのを基本としています。まず回収の可否について検討します。前記の診療債権や家賃のように,一定額の回収が期待できる場合は着手金は0円でお受けいたします。
安易な解雇は,会社を壊滅させる!


―― 不況は深刻になる一方で,能力不足や勤務態度の不良の従業員を解雇したいと考える経営者は多くいます。

前田 従業員を解雇することは,経営者が考えるほど簡単ではありません。「病気で元の業務を遂行できなくとも配置可能な業務を検討すべきである」とか,「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり,著しく労働能力が劣り,しかも向上の見込みがないという場合でなければならない」などとして解雇を無効とした裁判例は珍しくなく,能力不足や勤務態度の不良という理由で従業員を解雇する場合のハードルは,極めて高いものです。業務命令違反の労働者に対する4回のけん責(戒告)後の解雇を無効とした裁判例もあります。

―― でも,整理解雇の場合ということになれば,ハードルは低くなるのでは。

前田 抽象的にはそう言えそうですが,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力,③被解雇者選定基準の妥当性,④労使交渉等の手続の合理性が要素とされ,実際の裁判例では,経営者が考えるより厳格に判断されるため,解雇が無効とされた事例が少なくありません。

―― 身近な具体例はありませんか。

前田 札幌地方裁判所の事件ですが,出張旅費の着服で懲戒解雇された従業員からの退職金の支払い請求に対し,約540万円の支払と認めた裁判例もあります。経営者の立場で考えると,裁判所の判断は複雑怪奇というほかないかもしれませんが,現実は現実として受け止めなければなりません。

―― ほかに留意しておくことはありませんか。

前田 契約社員の雇い止めが無効とされた事例,解雇せずに退職勧奨したのに退職強要として不法行為にあたるとされた事例などがあり,留意すべきことは山のようにあります。
 また,解雇を通知したことを契機に労働組合が結成されることもあります。円満に協議していく内容の書面であると思って署名捺印したら,何事も組合の同意がなければ決められなくなってしまったとか,「団体交渉に社長を出席させろ」「決算書を提出しろ」と要求され応じざるを得なくなった事例もしばしばみられます。経営者としては,これまで体験したことのない団体交渉に出席して対応するだけでも大変なことでしょう。
 こういった問題に加え,証拠の確保という観点からの心構えもありますので,壊滅的な事態にならないよう専門家の意見を聴きながら一緒に事を進める必要があります。
残業問題が会社を潰す!


 ――最近,残業代請求をよく耳にします。

 前田 過払金バブルで,消費者金融を相手に稼いでいた弁護士たちが,次の市場として精力を傾け始めたのが要因ともいわれています。残業代は,最低でも2割5分割増で計算されますが,未払いで争われた場合は法律上,損害利息として5%から14・6%が加算されます。残業代と同額の付加金の支払を命じられる場合もあり,過払い請求の増加が,サラ金を弱体化させたように,企業にとっては,存亡にかかわる大問題になります。

 ――会社は,事前に対応策を講じていたのでは。

 前田 残業代の請求された経営者は,「残業代は支給しないを同意していた」「基本給に残業代を含めて金額を決めていた」「管理職手当・精勤手当等の手当に残業代が含まれている」「歩合給を払っている」「年俸制にしている」「管理監督者である」「時間外に仕事を命じていない」「休憩していて仕事をしていない」などと反論します。しかし裁判では,ほとんど通用しません。従業員が同意した書面を作っていても同じです。

 ――一斉に残業代が請求されたら,大変なことになりますね。

 前田 時効があるので2年分は支払わなければなりません。1度総額払った場合を試算してみると良いと思います。中小企業でも,1000万円を超えてしまうこともあります。

 ――実例はどうなっていますか。

 前田 日本マクドナルドが直営店の店長,いわゆる"名ばかり管理職"に残業代を払わないのを違法とした裁判例は,ご存じの方も多いと思います。最近では,深夜労働ならば,本当の管理監督者であっても「割増賃金請求が可能である」と最高裁は明言しています。

 ――ほかにはどんな例が。

 前田 仮眠時間や,空き時間にパソコンで遊んだ場合も労働時間に含まれるとした事例。旅行添乗員は,事業場外みなし労働時間制の適用を受けないとして,約2300万円の残業代の支払いが命じられた事例。タイムカードの始業時刻から就業時刻まですべてが労働時間と算定された事例,労働者自身が作成した超勤時間整理簿をもとに,残業時間を認定した事例などがあります。事件ごとに個性や特殊性があり,専門的な見地から,具体的な状況を詳細に検討し,落としどころを探っていかなければならないのです。社員の退社をきっかけに会社内に労働組合ができ,労使間に緊張関係が会社全体に及んでしまうことも想定されます。闘うことを熟知した専門家にきちんと相談する必要があります。
交通事故の示談を簡単にしてはいけない!

 ――交通事故に遭った場合,請求できる賠償金の算出方法を教えて下さい。

 前田 被害を「損害」という形で金銭的に評価し,加害者に支払いを求めます。ここでは人身被害についてお話しします。損害は,治療代,葬儀費用といった支出のほかに,事故に遭って失った収入といった財産的損害があります。死亡した場合,定年までの収入から,生活費を引いた額が損害となります。傷害の場合は,けがで休職し得られなくなった収入を損害とします。後遺症が残って仕事に支障が出た場合は,将来に渡って収入が減ると想定。1等級から14等級に区分され,100%から5%の労働能力が喪失したとして,減った分が損害となります。被害者の精神的苦痛も慰謝料として請求できます。

 --この損害を,保険会社が賠償金として支払うわけですね。

 前田 裁判で争った場合にくらべかなり低い額しか払われません。私が担当した事件の中に,後遺症が残り長期入院した女性がいました。保険会社は賠償金は,残り57万円しか出さないと告げましたが,裁判の結果2300万円の支払いを受けられました。別の死亡事故では,慰謝料は6000万円と提示でしたが,最終的に9200万円になりました。

 --保険は無制限のものが多いと思いますが。

 前田 自社基準の金額内で"無制限に払う"という意味です。保険会社の基準は裁判の基準に比べかなり低いです。保険会社は,被害者の過失部分を主張して更に減額しようとしてきます。保険会社が「判例があるので,被害者の過失は45%」と説明していた例がありました。実際に,裁判所が認めた過失は30%と低いものでした。後遺症の程度が一番低い14等級と認定された場合でも,保険会社の提示が150万円に対し,裁判では360万円以上の支払いを受けた事例があります。

 ――経営者の場合には,何か違いがありますか。

 前田 サラリーマンであれば,年収を基礎収入とします。オーナーの報酬は,労働対価に加え会社の利益が含まれている場合があります。判例では利益部分を減額して算定することが多いです。ただ私が担当した事案の中に,裁判所に報酬を100%認めさせた事例があります。保険会社の言うことを信頼して示談にしてはいけません。弁護士に依頼して裁判までしないと状況は変わらないのです。



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