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【BNN】裁判員ドラマの「主人公」酒井法子容疑者の犯罪

裁判員ドラマの「主人公」酒井法子容疑者の犯罪

 
 

 8月8日夜、裁判員制度の広報用映画「審理」に主演していた酒井法子容疑者が、覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕された。広報用映画「審理」は、最高裁が製作したもので、酒井容疑者は、主婦が務める裁判員として主人公を演じていた。 

前田尚一氏

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 裁判所の庁舎に入ると、待合いスペースで一日中、テレビ再生されており、もしかすると、局地的ではあるが、放映場所数、放映回数において、劇場のヒット作を凌駕するロングランであったかもしれない。

 3日未明、夫の高相祐一容疑者が覚せい剤取締法違反容疑で現行犯逮捕された。酒井容疑者は、その後直ぐに長男を連れたまま失踪し、「悲劇」の妻として安否が気遣われる存在となっていた。しかし、7日覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕状が出され、「逃走劇」に様相が一転した。尿検査を免れるためなどといった憶測も渦巻く中、8日夜、弁護士らに付き添われ出頭し、逮捕された。逃走6日目の「逮捕劇」となったのである。

 夫が逮捕された8月3日は初の裁判員裁判が始まった日であり、酒井容疑者に逮捕状が出された7日は判決が言い渡された日の翌日である。

 捜査員が、夫とたまたま路上でばったりあって、その場で現行犯逮捕なんてことはあり得ず、おそらくは、タイミングを狙って一定期間泳がせていたのであろう。一連の流れは、ある程度は、初の裁判員裁判が始まることを意識した結果かもしれない。

 酒井容疑者の弟である指定暴力団山口組系組員が、6月29日に逮捕され、7月28日に、覚せい剤取締法違反で起訴(産経新聞2009.08.09付朝刊)されていたというのであるから、初の裁判員裁判実施にあたって、きっと最高裁も、飛び火するのか、いつ爆発するのかなどと、狼狽し続けていたに違いない。

 最高裁は、7日、酒井容疑者に逮捕状が出たことが公になるや、広報用映画を使用した広報活動を自粛することとし、DVD、パンフレットの配布や貸し出しを中止するとともに、ウエブサイトからの動画配信を停止するほか、各地の裁判所庁舎内に張られていたポスターも撤去するなどと発表した。

 大阪家裁のように、同日、逮捕状が出たというニュースを知って、午前中のうちにいきなりポスターを撤去したが、1時間余りで一旦張り直したうえ、最高裁の要請があった後夕方に、改めて撤去するという事態(毎日新聞2009.08.08付朝刊)もあり、組織としてはフライングと評すべき対処も見られた。

 上記毎日新聞は、一部の職員からは、「現段階では無罪推定なのに」との声も漏れた、と報じているが、人権派弁護士など同じ意見を持つ人々も多いと思われる。

 初の裁判員裁判においては、裁判員の質問などにつき、大方のマスコミは「市民の目線」などと好感度を強調して報道し、予想より重かったといわれる量刑は市民感覚を反映するものと評価する識者も多い。

 裁判員裁判が続けられる限り、その核心に、「市民感覚」の反映がおかれなければならないが、そうであれば、これまで原理原則と抽象的に述べられてきたことが、「市民感覚」としてどう理解されるのかを、具体的に語られていかなければならない。

 「無罪推定」もまた、原理原則としては語られてきたが、抽象的であるだけに、実際に遵守されてきたのか、それともスローガンの役目ばかりで軽視されてきたのか、市民としては、とても分かりにくい。

 初の裁判員裁判の過程と並行した主人公の犯罪に係る一連の流れについて、最高裁の動きを重ね合わせ、最高裁の対応は、「無罪推定」という観点からは、「市民感覚」からは受け入れることができることなのか、そうではないのか、「無罪推定」といったことを、どんな場面でどのように守られるべきもなのかなどと、ちょっと考えてみることも、有意義であろう。
 
 蛇足ながら、所持であれ、使用であれ、覚せい剤取締法に定められた刑罰は、10年以下の懲役だ(第41条の2第1項、第41条の3第1項第1号・第19条)。裁判員裁判の対象となる事件は、最高裁のHPでも、
「一定の重大な犯罪であり」と例を挙げて説明している。正式な説明をしても難解となってしまうのでここでは述べないが、少なくとも法定刑の中に死刑が含まれている犯罪である。

 いずれにしても、酒井容疑者が、裁判員裁判で裁かれることはない。

 もっとも、将来、主人公の犯罪を強盗殺人罪に置き換え、初の裁判員裁判の実施を控え、主人公と最高裁や捜査機関との織りなす糸をモチーフとしたサスペンスドラマが現れるかもしれない。

 

 

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