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コラム

2009年12月アーカイブ

犯罪成立に「動機」は必要か

前田弁護士

前田尚一弁護士

プロフィール

 

 「執行猶予中も『あぶり』!元・光GENJIまた覚せい剤」。

 紙・電波もちろん、ネットでも「スポニチ Sponichi Annex(12月30日)」ほか多数で報じられている。

 個性の時代と言いながら、このような報道があると、世間の考えは一気に大きな方向に流れるのが、最近の傾向のようだ。

 「彼の環境が、彼が覚せい剤を使用しなければならない状況に追い込んだ!!」 と言われることがある。

 しかし、同じ環境にある人々が、皆、覚せい剤を使用するわけではない。極めて例外的な行動だ。

 「覚せい剤を1回使用すると、ほとんどまた使う。常習性、再犯性が強く、戻ることは難しい!!」と言われることもある。それでも、例外的ではあるとしても、更生して元の世界に生還する人もいる。

 物事必ず例外があり、例外も一緒に考えておかないと、1億3000万人が一気に間違った方向に行くというと大袈裟かもしれないが、重大で再生不能の過ちも怒りかねない。各人が個性の時代と錯覚しているとなおさらだ。

 少年犯罪が起きると、テレビに呼ばれた専門家は、「このような事件が起こらないようにするためには、1度の事件として扱うべきではなく、少年の心の暗闇に光を当てなければならない」などと解説する。

 だが、少年の心の暗闇はどこにあるのだろう。どうやって光を与えるのだろう。犯罪の被害者は毎日のように作られる。被害者や家族のプライバシーがもっともらしく暴かれる。加害者の、犯罪とは関係のない身内が責められ続ける。

 もちろん、各人がいろいろ考えたからといって、世の中が変わるわけではないのが現実だが、識者の言うことを、「ごもっとも」と思って聞いていると、自分自身を変えることさえもできない。

 報道の嵐の中で、つい最近の重大事件も、あっという間に忘れがちだ。「結婚サギ不審死」事件が複数報道された。1つの事件で被害者は複数だが、詐欺(未遂)罪で起訴されたが、殺人罪で起訴すべきかどうかはともかく、罪名に殺人罪はないのは何故だろう。とはいえ、このままでは、きっとこのまま忘れ去られるだろう。

 押尾学は、何故またしても逮捕されたのか?背景は何か。本当に逮捕された罪名で起訴されるのか、しっかり見ておかなければならない。

 和歌山カレー事件は状況証拠しかないと言われながら、なぜ有罪になったのか。死刑判決が確定したのだ。状況証拠も、訴訟上は証拠だなどという学者の論理で説明すれば足りるものではない。判決当時、「動機はとうとう明らかにされなかった」ともっともらしく論じられた。そもそも犯罪の成立に「動機」は必要か。

 考えてみると、刑事事件だけみても、あまり論じられていないが、興味深い疑問は山のようにある。今年は、忙しさにかまけて本連載への寄稿回数が今ひとつだった。

 今回は予告じみてしまったが、来年は是非、頻繁に寄稿したいと考えている。

 私のブログ「弁護士Mの独り言」とメルマガ「本当は怖い身近な法律問題」(無料)と共に、この「弁護士Mの小咄」もご愛顧いただけるようお願いいたします。

 

前田尚一法律事務所 法律情報
http://www.smaedalaw.com/jyoho.htm

 まずは,あなた自身が,次のような場面に遭遇したとイメージして下さい。

 昔すごく仲が良かったのに,ある出来事をきっかけにすっかり仲が悪くなってしまった人を具体的に思い浮かべて見てください。

 あなたは,この相手とこじれています。相手から,突然,100万円を返せ,と裁判を起こされたのです。

 お金を返す筋合いなど全くないのです。まったくの言い掛かりなのです。
 言い掛かりなので,相手の手元には証拠がないのですが,あなたも手元にも,一気に相手をたたきのめす証拠がないのです。

 次の二つの場合を考えてみてください。

 1 全く借りたことはない場合。
 2 確かに借りたことはあるけれど,とっくの昔に返してしまったいた場合

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 裁判は,言い分を闘わせる場です。
 裁判所は何も分からないところから,勝ち負けが決まっていくわけですから,決め方にルールがあります。
 
 「立証責任」とか「証明責任」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
 裁判では,証明をしなければ勝てないというということは,誰でも知っていることです。

 このことをもう少しプロっぽく説明しようと思います。
 ただ,大学の先生には不正確だと叱られてしまうかも知れませんが,キモの理解を分かりやすく説明することを本分にしてお伝えします。

 裁判は,法律で裁かれるわけですから,争いがある限り,原告,被告は,法律で定められた事実を主張し,証明することになります。


ある事実があったのか,なかったのか分からない場合(真偽不明),裁判所は,その事実はないものと扱い,勝ち負けを判断することになります。


その場合,一見当たり前のようですが,「立証責任」のもっとも基本的なキモは,
《自己に有利となる事実は,有利となる側で証明しなければならない》ということです。


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 さて,例題に戻ります。

 100万円を返せ,と裁判を起こされたけれど,全く借りたことがない場合。

 被告のあなたは,借りたことはないと回答すれば,それで,あなたは勝ちとなります。

 この例題では,あなたも相手も証拠がない。つまり,原告である相手があなたに貸したという有利な事実を証明できないのですから。


 あなたは,「借りていない」ということを証明する必要はありません。 証明の対象は,原則として,事実があったことです。

 例えば,「どんな癌でも治すことができる温泉がある」ということが争いとなった場合,そのような温泉がないことを証明するのは殆ど不可能です。世界中の温泉全てについて,直せない癌があることを証明し尽くさなければならないからです。
 しかし,そのような温泉があることを証明するのは,一つ具体例を挙げればすむのです。
 
事実がないことを証明することを求めれることは,このようにほとんど不可能なので,悪魔に無理を強いられるというイメージで,
「悪魔の証明」といわれています。例外的にこのような証明が求められる場合もありますが,とんでもなくまれな場合です。


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 では,100万円を借りたことはあるけれど,とっくの昔に返してしまっていた場合はどうでしょう。

 とりあえず,正直者のあなたは,100万円を借りたことはあるので,100万円を借りたことを認めることでしょう。
 そうすると,相手が,借用証書などこのことの証拠が全くない場合であっても,あなたが認めた以上,このことに争いがないものとして,裁判所は,「あなたが100万円を借りた」こととして扱います。

 さて,あなたは,「でも,全部返したよ」と主張し,徹底抗戦をすることになるでしょう。

 しかし,例題の設定では,あなたは,領収書など,借りたお金を全部返しことを証明する証拠を持ち合わせていないのです。

 あなたは,あなたにとって,有利な事実を証明することができない。
 もちろん,相手は,返してもらっていないことを証明する必要もない。
 つまり,裁判所にとって,あなたが100万円を返したかどうかは,真偽不明となる・・・・・・。

 もう,お分かりでしょう。

 裁判のルール上,あなたは負けるのです。

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