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コラム

弁護士:前田尚一: 2010年6月アーカイブ


 こちらを御覧下さい。
http://www.smaedalaw.com/mt/2010/06/tv22618.php


 6月11日の産経新聞朝刊に掲載された《「顔の傷」男女差是正へ 労災補償の等級 国が控訴断念》という見出しの記事によると,「労災で顔や首に大やけどをした京都府の男性(35)が、女性よりも障害等級が低いのは男女平等を定めた憲法に反するとして国の補償給付処分取り消しを求めた訴訟で、厚生労働省は10日、等級の男女差を違憲とした京都地裁判決を受け入れ、控訴
を断念することを決めた。本年度中の等級見直しを目指す。」とのことです。

 もちろん,誤りを正すのに速すぎるということはなく,これまで,裁判になると,最後まで争うという姿勢であった国の姿勢に照らすと,改善されたと評価できるのかもしれません。

 しかし,国は,訴訟が続いている間中,総力をあげ徹底した訴訟対策をしており,国の立場が正しいのか,誤りであるのかは,判決をもらうまでもなく,明らかになっているはずです。

 国としては誤りと思わなかったけれど,裁判で負けたから,世間の目を気にして,控訴を断念するというのであれば,むしろ,政治は悪くなっていく一方。
 まして,選挙を控え,火種はなるべく消しておくという意向が,どこからか現場に働いているのであれば,大問題。

 一見,対応の仕方が国民よりと思えるようなものであっても,少し斜に構えて監視することも必要だと思うのですが,私は"あまのじゃく"なのでしょうか。

 読売新聞5月28日朝刊に,《労災補償 顔の傷 男女差は違憲 京都地裁判決 「合理的理由ない」》という見出しの,次の記事が掲載されました。

 労災の認定基準についての裁判ですが,交通事故の自賠責保険の基準のほか,交通事故の裁判の基準にも少なからず影響を与えることになるでしょう。同じ件の記事の中で,読売新聞の記事が,簡にして要でとても分かりやすかったので,まだお手元にある方はぜひご覧下さい。

 ところで,同日の朝日新聞朝刊には,次のような識者の意見が紹介されています。
 ☆「顔に残った障害に男女差があるのは、裏を返せば女性は容姿が大事ということ。ミスコンテストと源流は同じだ」
 ☆「女性にとって最大の『就職先』が結婚とされた時代には、顔の障害が人生を左右すると考えられたのだろう」
 ☆「男性にも外見を気にする人はおり、社会的ダメージや精神的な被害は男女差ではなく、個人差と考えるべきだ」
 ☆「こうした格差づけは、男性への差別的扱いであると同時に、社会が女性を『外見』でとらえてきたことの表れでもあり、二重の意味で不平等を生んでいる。同様の法令や規定がないか洗い出し、国は見直しを図るべきだ」「女性の障害等級を引き下げるのではなく、男性を女性の水準に引き上げるべきだ」

 不平等だという結論には,かなりの賛成があるかもしれません。
 しかし,識者の意見を見ると,違和感を感じるものもあり,根本的な考え方については,意見が別れるところかも知れません。

 ともあれ,私は,男と女という別の人間の間の差が差別になるのかという視点より,そもそも,男性と女性が連続化し,境界がなくなっていることが世の中の潮流となっており,本判決も,そのような時代認識のもとに理解すべきものと考えています。
 「男と女の間には深くて暗い川がある」と歌っていたのは野坂昭如氏ですが,世の中の動きを考える場合,そのような時代認識は,もはや誤りだということです。

 裁判例というのは,裁判官の思いが表れたとしても,これを受け入れる国民側の在り方によって,今後どのように成長しているか,あるいは衰退していくかが変わっていきます。
 意見を持つのは大事なことですが,良い悪いの善悪の基準によらずに,受け入れる世の中の客観的な状況を考えてみることが必要であると思います。

 そうしないと,「元首相より,はっきりモノが言える新首相の方が素晴らしい。」などという意見がまかりとおってしまいます。要は,現に存在する環境の中で,あるべき未来をを切り開いていく力があるかを見なくてはならないはずです。

 5月29日の朝日新聞朝刊は,《玄関に家賃催促状,違法 大阪地裁「滞納はプライバシー」》という見出しの記事を掲載しました。

 滞納家賃の支払いを求める催促状を自宅玄関に張られ精神的苦痛を受けたとして,大阪府柏原市の会社員の男性(29)が家賃保証会社に110万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日,大阪地裁であり,裁判官は「家賃の支払状況はプライバシー情報で,不特定の人に知られる状態にするのは名誉を損ねる違法な取立てだ」として,保証会社に慰謝料など6万5000円の支払を命じた,とのことです。

 取立てといえば,消費者金融や中小企業金融の専売特許のようなイメージでしたが,最近では,滞納家賃についても社会問題化しています。平成20年の家賃債務保証をめぐる消費者トラブルに関わる相談件数は,平成16年に比べ10倍以上に増加しているとのことです(国民生活センター)。

 滞納家賃の取立てを規制する法律は,これまでなかったのですが,昨年11月3日福岡地裁は午後以降の取立てを違法と判断し,12月13日大阪地裁が,鍵交換は違法と判断するなどしていました。

 鳩山内閣のごたごたで影響があるかもしれませんが,「追い出し規制法案」(通称)が,6月にも成立する見通しとなっていました。
 正式名称は,「賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」です。


 新しい法律は,家賃債務保証業者の業務の適正な運営の確保を図ると共に,家賃等の悪質な取立て行為を排除すること等により,家賃住宅の賃借人の居住の安定確保を図ることが目的とされ,
  1 家賃債務保証業の登録制度
  2 家賃等弁済情報データベースの登録
  3 家賃等の悪質な取立て行為の禁止
が,法規制の三本柱とされています。

 3について禁止行為とされるのは,
 (1)面会,文書送付,貼り紙,電話等の手法を問わず,人を威圧すること
 (2)人の私生活又は業務の平穏を害するような言動
 です。

 そして,鍵の交換等(ドアロック),動産の持ち出し・保管,深夜・早朝の催促,これらの行為を予告することがあげられており,違反した場合は,罰則があり,最高2年の懲役刑が課せられることになっています。


 私は不動産業者の顧問弁護士もしており,現実問題として,家賃を滞納し目に余る賃借人も少なくないのも事実。
 しかし,ある意味では当然,しかし,ある意味では余り大きな声では言われなかったたこと,どんなに滞納しても賃借人に守るべき権利があることが正々堂々と確認されることとなったのです。

 新しい法律は,「追い出し規制法案」が通称とされ,「追い出し屋」との関係で報道されることもあります。
 しかし,新しい法律は,暴力団やこれに類する者だけではなく,家賃債務保証業者のほか,住宅の賃貸事業者,賃貸管理業者も対象とされています(取立ての委託先も含む。)。

 きちんとした不動産業者であっても,従来からの思いにとらわれ,ウッカリ甘く考えると,大変なことになることを胆に命じなければなりません。 

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